【業務内容】
エンジニアを中心とする人材紹介
【利用用途】
紹介人材の情報管理、顧客管理、ファイル管理
メーカーの製品開発や製造工程、またIT業界のソフトウェア開発におけるエンジニアに特化して人材の派遣から業務の請負・委託・受託の事業を展開するトラスト・テック。中国本土と香港の間で取り交わされているCEPA(経済貿易緊密化取り決め)の枠組みの中で、香港のグループ会社が有する人材紹介事業のライセンスを以て、2016年に中国本土で人材紹介事業を展開する托斯蔕客(上海)人材諮詢有限公司(以下、トラス・テック上海)を設立した。上海で本格的に営業を開始するとほぼ同時にkintoneを導入したのは、サービスの肝となる人材の様々な情報を管理することが事業展開の基礎として必要不可欠だったためだ。では、なぜkintoneを選択したのか。人材ビジネスに業種特化した専門のソフトウェアとも比較した選定の過程や、今では顧客管理をはじめ、社内のあらゆる情報をkintoneで管理するというその利便性について、大泉繁総経理にお伺いました。(取材:2017年7月)
今回はトラスト・テック上海にお伺いして大泉総経理にお話を聞きました。
1997年設立のトラスト・テック(東京証券取引所 市場第一部)は、製造業からIT業界の主にエンジニアに特化した人材派遣、業務受託・委託・請負を主要な事業として、グローバルに展開する顧客の海外拠点における人材支援も手掛けている。中国は2013年に施行された改正労働契約法によって、派遣労働者の業務内容や企業が雇用する総数に占める比率などの規定が厳格化され、派遣人材を利用する企業側の負担が従来に比べて大きく増加した。その一方で、よりフレキシブルな雇用形態や管理手法を求める企業側のニーズや、自身の専門性や経験を活かす就業の機会を求める人材側のニーズは着実に増え続けており、人材紹介を中心とする人材ビジネスの市場は一段と旺盛になってきている。
「人材ビジネスは本来、先進国で成り立つモデル。労働者人口が減少局面に入り、高度なスキルや豊富な経験を持つ人材の価値に対して、企業が対価を支払う人材ビジネスが成立する中国は、その点からは十分に先進国です」と大泉総経理は、人材ビジネスの観点から中国をこのように捉える。なかでも、トラスト・テック上海が強みとするのは自動車や半導体の製造に関わるエンジニアを中心とする電機・機械業界での人材紹介だ。
現在、特に半導体は中国が政府主導で推進する製造業育成の重点分野の一つ。中国は半導体を基幹産業にするため、国内企業はもとより、外資メーカーの投資も積極的に促し、それに応えるように半導体設備への投資は拡大している。今後、中国では半導体の大規模な増産が見込まれており、こうした背景もあってトラスト・テック上海から主に日系企業へのエンジニアの紹介件数は増加している。
俗に中国は日本に比べてジョブホッピングが多い傾向があると捉えられているが、自身のキャリアデザインを強く意識する人材が増え始めたのは、実はここ最近のことだと大泉総経理は説明する。「お客様と人材がマッチして、はじめて弊社の存在価値が生まれる。人材が辞めるから補充する、というニーズに対してももちろんですが、お客様の業界や会社のことを十分に知り、必要な人材を先行して紹介することで『こんな人材がほしかった』と言われる存在でありたいですね」(大泉総経理)
トラスト・テック上海の大泉繁・総経理
「設備や機械といったハードウェアの設置・設定・保守・修理を担うフィールドエンジニアをはじめ、半導体業界からは人材の供給が追い付かないほど引き合いが増えています」(大泉総経理)と事業は至って好調だ。だが、日本での経歴も含めて長年人材ビジネスに携わってきた大泉総経理からすると、「中国はとにかく人材のボリュームが多く、その管理が非常に大変」だという。
トラスト・テック上海がkintoneを導入したのは2016年7月。上海に現地法人を設立し、これから中国大陸で本格的に人材紹介の事業を立ち上げる、まさにそのタイミングだった。kintoneを導入する理由として多いのが、事業規模が拡大するにつれ、従来はエクセルや紙、メールを利用していた社内の情報の管理・共有に課題を抱えるというケースだ。しかし、トラスト・テック上海は事業展開の基礎の仕組みとしてkintoneを導入した。なぜか。
「サービスの肝となる人材の様々な情報をしっかりと管理することが、人材ビジネスを手掛ける弊社にとって必要不可欠であり、その情報の量と質が競争力の一つになる」と、大泉総経理はその理由を説明する。ただ、人材ビジネスを手掛ける上でこうした考え方は決して珍しいものではない。実際、こうしたニーズに対応するツールとして業種に特化した専門のパッケージソフトウェアが日本にも中国にもある。無論、トラスト・テック上海でもこれらとkintoneを比較検討した。「日本のパッケージでは、例えば民族や戸籍といった日本にはない中国独特の情報に対応できない。一方、中国のパッケージでは、人材の名前の日本語読みの情報を入力する項目がないなど、中国で日系企業向けに人材紹介のビジネスを展開する弊社にとって、いずれも要件を満たせなかった」と選定の過程を振り返る大泉総経理。「自社のニーズに合わせてカスタマイズできること重要でした。kintoneを採用した決め手は、まさにその柔軟なカスタマイズ性です」(大泉総経理)
トラスト・テック上海が紹介する人材情報を一元管理するために利用するのは、kintone上で作成したアプリケーション「人材情報一覧」だ。このアプリケーションでは、一人の人材に関して入力できる項目を非常に多く設けており、例えば連絡先ひとつとっても、電話番号からメールアドレスといった一般的な項目から、QQや微信といった中国ならではの連絡手段もある。日本では個人のSNSのアカウントを連絡先として管理することはまず考えられないだろうが、中国では特に微信による業務連絡は至極当たり前になってきている。日系の既存のパッケージでは対応できないこうした項目を柔軟に設けることができるのも、kintoneの高いカスタマイズ性ならではといえるだろう。
しかし、入力項目が増えすぎると縦長の画面で入力しづらくなりはしないか。トラスト・テック上海では、タブ制御のプラグインで機能を拡張し、入力項目をグルーピングしてタブ表示することによって、縦スクロールすることなく、スッキリとした入力画面を実現している。「人材情報一覧」のアプリケーションでは、「基本情報」「学歴・語学・資格」「職務経歴」「対応コメント」「紹介案件」「媒体メモ」といった複数のタブにグルーピングして情報を管理する。「媒体メモ」のタブでは、紹介する人材が登録する求人サイトの情報をスクリーンショットで張り付け、常に人材に関する最新の情報を把握するようにしている。「人材のプロフィールや求職活動に関する過去の情報は削除せず、kintoneに残したまま、新しい情報をアップデートします。こうして情報を蓄積することで、その人材にどのような会社がマッチするのかの理解が深まるのです」(大泉総経理)。
紹介する人材の情報として入力する項目が多いため、
情報毎にグルーピングしてタブ表示することで縦長のスクロールにならず、スッキリした画面で利用できる。
その考え方は、同様にkintoneで管理する顧客情報にも当てはまる。「お客様の過去からの求人に関する情報を蓄積し続けることで、総経理の交代に伴う人事の方針や好みの変更、また離職率や給与水準が同業他社と比べて高いか低いかなど、お客様自身ではなかなか気付かない情報や時系列の傾向が把握できる」と大泉総経理は説明する。そうすることで、「お客様から要望がある前に、こちらから先行して人材の紹介や人事に関する包括的な提案ができる」(大泉総経理)という。「人材とお客様の双方の情報をkintoneで周到に管理しなければ実現できない」と大泉総経理はその利便性に太鼓判を押す。
顧客情報管理も紹介人材と同様に情報毎にタブ表示している。
顧客情報の管理では「案件・進捗」のタブがあり、ここでは紹介した人材の業種、給与等の情報を管理している。
顧客の会社で就業する従業員の転職活動に関する情報も管理する。顧客に対して先行して人材を紹介する情報の一つとなる。
また、トラスト・テック上海がkintoneで管理する情報は、紹介人材や顧客の情報だけに留まらない。総務や人事、経理をはじめとして、大泉総経理の言葉を借りれば「社内の情報の全てをkintone上で管理している」のだ。理由は、大きく3つある。1つは情報が属人的に管理されることのリスクを避けるためだ。エクセルや紙などを用いた属人的な管理手法が原因による情報の紛失のリスクは、クラウドサービスであるkintoneで一元管理することによって回避できる。2つ目は、インターネット環境さえあれば必要な情報をいつでもどこでもすぐに確認できる利便性だ。最後に3つ目は、アクセス権限が設定できること。職位や部門によってアクセスできる情報を制限できるため、セキュリティ面でも安心だ。
総務や人事、経理に関する情報もkintoneをファイル管理として活用して情報を一元管理している。
上海でのkintoneの利活用を受けて、トラスト・テックの他の海外グループでも導入する検討が進んでいる。「海外グループ同士で日系企業のお客様の情報を共有することで、同じお客様の海外グループに対して弊社グループでダイナミックに、かつ最適なご提案が可能になる」と、大泉総経理はその試みの目的を説明する。
現在、半導体業界は好景気に沸き、トラスト・テック上海にとっては追い風だ。しかし、実のところ、日本語を習得する人材は年々減少しており、加えてエンジニアとして優れた技術力を持つ人材と日本語をスキルとして持つ人材の親和性は非常に低くなっている。こうした背景もあって、「日本語という言語スキルを強みとする人材にフォーカスするのではなく、電機・機械業界で求められる本質的な技術力を強みとする人材の紹介にシフトし、顧客のすそ野を中国企業にまで広げていきたい」と大泉総経理は今後の展開を語る。
すでに人材ビジネスが事業モデルとして成立する中国は今後、優秀な人材の獲得競争が一段と熾烈を極めることが予想される。大泉総経理は、「良い人材を事業に適した形で適切な給与で雇用することが、中国で企業競争力を高めるためにますます重要になってきます」と日系企業へのメッセージで締め括った。