【業務内容】
統括会社
【利用用途】
ワークフロー
高機能繊維や化成品、複合成形材料といったマテリアル事業から医薬や在宅医療などのヘルスケア事業、さらにIT分野まで幅広い事業をグローバルで展開する帝人。世界各国の海外グループ会社は100社を超え、ここ中国だけでも21社を数える、まさにグローバルカンパニーだ。エンジニアリングプラスチックとして代表的な樹脂のポリカーボネート樹脂を中心に、中国はグローバル全社の売上の13%を稼ぎ出す主要マーケットの一つ。その中国大陸と香港・台湾にある数多くの事業会社の統括会社として、2010年に設立したのが帝人(中国)投資有限公司だ。グループ会社へ人事から経理・財務、購買などの支援をはじめ、新規ビジネスやプロジェクトのサポートを手掛けている。kintoneの導入は2014年。経費の申請・承認のワークフローとして利用するとともに、財務システム、バンクシステムと連携することで二重入力などによるオペレーションミスの低減を実現。今西弘行・財務部部長にお話を伺いました。(取材:2017年8月)
今回は在中国の帝人グル―プの統括会社である帝人(中国)投資有限公司様にお伺いしました。
帝人の中国進出は早く、香港、そして上海にそれぞれ貿易会社を設立したのは1970年代。当時は日本の製品を輸出し、それらを中国で販売することが主な事業であった。その後、1990年代に今でこそ日系の製造拠点が数多く進出する江蘇省南通市にいち早く布地や織物といったテキスタイルの生産工場を設立し、さらに2000年代には浙江省嘉興市にポリカーボネート樹脂の生産工場を設立して、現在は中国全土で実に21社の事業会社を構える大所帯だ。
ポリカーボネート樹脂「PANLITE」(左)やテキスタイル、アラミド繊維(右)といったマテリアルが中国での主要な事業。
「PANLITE」は帝人が日本で初めて商用化したポリカーボネート樹脂だ。
中国ではヘッドライトなどの樹脂製品やカーシート、エアバックといったオートモービル関連から、パソコンやスマートフォンなどの筐体に利用するエレクトロニクス関連の領域で高機能繊維、衣料繊維・産業資材並びに化成品・複合成形材料などのマテリアル事業を中心に展開している。なかでも、中国ビジネスを大きく牽引するのが、衝撃特性や耐熱性、寸法安定性、透明性など多くの特性を備え、オートモービルとエレクトロニクスの分野で広く利用されているポリカーボネート樹脂だ。帝人の中国全体の売上の実に65%強を稼ぐ重要な収益の柱である。
帝人(中国)投資有限公司の設立は2010年。それぞれに独自の事業を展開する複数のグループ会社の持続的な成長と発展を実現するため、統括会社として人事・総務、経理・財務、購買などの各種業務の支援から、中国で新たなビジネスやそれに伴うプロジェクトを立ち上げる足掛かりを横断的にサポートしている。「統括会社として共通の業務を取りまとめることによって、各社が個別にリソースを抱えて実施するよりもグループ全体として統制を確保しつつ効率性を高める。いわばグループの行司役です」と財務部の今西部長は自社の役割と説明する。
例えば、人事方面ではグループ全体でコアとなる人材を育成するために外部のプログラムなどを統括会社が一元的に集約することで、各社が個別で実施するよりも格段にスケールメリットを生かして効率的に教育の質を高めている。また、従来は各社がそれぞれに行ってきた設備資金や運転資金の調達に関しても、統括会社の帝人(中国)投資有限公司がグループ間に立つことによって、余剰がある法人から資金を必要とする法人へ効率的に融通し、外部からの調達を減らすことでグループ全体で無駄なコストを削減するグループファイナンスを実現している。
帝人(中国)投資有限公司の今西弘行
財務部部長
加えて、帝人(中国)投資有限公司がその機能として目指している一つが経理・財務に関わる業務のシェアードサービスだ。各事業会社が共通して抱える経理・財務の業務やそれらに携わる人員を集約し、業務の標準化や人員の適正化を図ることでグループの一体経営を実現する構想だ。しかし、それぞれに異なる規模で独自の事業を展開する20社超の事業会社の経理・財務の業務を集約して管理を一元化するのは簡単ではない。日本本社の繊維や樹脂といった各々の事業部が主導して異なる時期に中国に進出していることもあり、例えば利用するERPのバージョンや計数システムがグループ会社毎に異なっているなど、一足飛びにはシェアードサービスが実現できない現状がある。
そこでまず、「経費精算に関する人の作業の部分を取りまとめるイメージで、その業務プロセスを標準化することから段階的に始めよう」(今西部長)と、自社と一部のグループ会社の経費精算の業務の効率化に着手した。「実際、それまでの経費精算はエクセルを使用した独自の申請書や精算書に使用する経費内容を記入して、それをプリントアウトした紙を回付することで申請や承認を行っていました」と今西部長は当時を振り返る。申請者とその上長による申請・承認のプロセスだけではなく、経理・財務部門においては紙の伝票に基いてその内容を計数システムや振り込みのためのバンクシステムに改めて入力する手間もかかり、「人為的なミスをはじめとする誤謬が発生する可能性が高く、非常に非効率だった」(今西部長)という。
帝人(中国)投資有限公司がkintoneを導入したのは2014年。それに先立ち、経費精算の申請・承認のワークフローをシステム化することで、承認の証跡をはじめとするプロセスをデータ化し、属人的な判断や行為が介在せずに決裁ルールがきちんと運用され、結果として統制の強化が図られることを目的としてツールの選定を開始した。「当時、kintoneを含む4つのツールを比較検討した」と話す今西部長は、「初期投資が少ないクラウドによる利用開始のハードルの低さと将来的に用途を拡大した際のコストパフォーマンスの高さでkintoneが最も際立っていた」とその決め手を説明する。
現在、kintoneで利用する経費精算のアプリケーションの一つに出張経費に関する「出張届出書」「出張経費精算書」がある。出張後、後者の「出張旅費精算書」を利用して出張経費を精算するためには、前者の「出張届出書」による事前申請が必ず承認されていなければ、精算する画面に進めない仕様だ。決裁ルールの運用を徹底することで、申請・承認プロセスの統制を強化すると同時に、標準化によって業務の効率は大幅に向上したという。また同様に「交際費申請書」「交際費精算書」のアプリケーションを利用する交際費の精算についても、同じ仕組みでプロセス管理の徹底を図っている。
経費精算のプロセス管理を徹底して統制を強化するため、例えば出張経費は「出張費申請」(左)から申請して承認されなければ、
「出張旅費精算書」(右)の画面に進めない仕様になっている。
一方、kintone導入前、紙の伝票による経費精算ではシステムへの手作業による入力という非効率な工程が発生していた経理・財務部門はどうか。「各申請の承認データがあるkintoneと財務関連のシステムをおおよそ自動連携する仕組みを構築し、紙に基づくデータを手作業で一つ一つ入力する工程そのものを削減した」(今西部長)。この連携によって人為的な入力ミスの低減はもちろん、申請された経費が事前承認されているかどうかといった人の目視によるデータチェックも必要がなくなり、業務の大幅な時間短縮を実現。伝票枚数のボリュームにもよるが、一つの精算に費やす作業時間は従来の半分以下に短縮できたという。また、以前は数日に分けて行っていた月末の業務も、kintone導入後は1日で完了するほどに業務効率が向上している。
経費申請を手始めにkintoneの利用を進めた帝人(中国)投資有限公司。いまでは社印の押印を申請する「公司用章申請」などの各種申請関連から会議室や社用車といった設備予約まで様々なワークフローにkintoneのアプリケーションをフル活用している。今西部長は「運用ルールの徹底による統制の強化だけではなく、例えば押印やサインの申請をkintoneに集約することで契約書などの重要なデータを一元管理でき、確認が必要な際にいつでもどこでもアクセスできる」と、その副次的な利点も高く評価している。
交際費も承認がおりている申請のみに精算の画面「交際費精算表」(左)に進める。
社印の押印を申請する「公司用章申請」(右)では契約書などの重要なデータが一元管理できる利点もある。
各事業会社がそれぞれに利用するシステムとの兼ね合いで一足飛びにはその実現は難しいが、帝人(中国)投資有限公司が目指すのはグループ全社の活用によって全体最適を図るシェアードサービスの提供に変わりはない。実際にkintoneによる業務の標準化とプロセス管理を通じた統制強化に対する賛同の声は多いという。「現在、kintoneを利用したワークフローをグループ会社に展開しています。SAPなどの基幹システムをはじめ、他のシステムとも連携が可能ですし、kintoneは多少複雑なワークフローにも対応できるので、多くの事業会社で導入が可能だと考えています」(今西部長)。
「事業会社個社では解決できない経理・財務業務などスタッフ業務の課題は投資公司に任せていただき、事業会社は各々の本業にリソースを集中して専念できる環境を整えていきたい」と今西部長はその展望を語る。その上で、「特色ある機能素材や製品、サービスを中国市場に提供することで、企業理念である『Quality Of Lifeの向上』の実現に貢献できればと思っています」と締め括った。