【業務内容】
家庭用カレー・洋食製品、業務用カレー製品、機能性製品の製造・販売
【利用用途】
顧客管理、商談管理、訪店管理
「カレーを人民食に」をスローガンに中国でカレーライスを中心に家庭用・業務用の洋食製品を展開する好侍食品(中国)投資有限公司(以下、ハウス食品中国)。テストマーケティングの一環として「上海カレーハウスレストラン」の1号店をオープンした1997年の中国進出以降、2005年にはルウカレーのバーモント(中国名は百夢多)カレーを発売し、生産・販売の拠点も順調に増え、その売上は10年で30倍に拡大してきた。しかし、その急拡大する事業規模の一方で営業活動を中心に業務管理の体制が追いつかず、「どのエリアにどれだけの顧客がいるのか」「営業が日々何をやっているのか」が十分に把握できない課題に直面した。そこで導入したのがkintone。従前からのエクセルやメールによる情報共有から脱却し、いかに顧客情報の集約が行われたのか。
kintoneを導入する経緯と社内で定着させるための工夫について、販売本部販売企画部の山岸部長にお話を伺いました。(取材:2017年2月)
今回はハウス食品中国にお伺いして販売本部販売企画部の山岸部長にお話を聞きました
いまから20年前、上海に一軒のレストランがオープンした。いわゆる日本式のカレーライスが中国で受け入れられるのかどうか。そのテストマーケティングのために始めた「上海カレーハウスレストラン」の1号店だ。店では客単価が42元と当時では非常に高い値段の日本式カレーライスがよく売れ、「中国で十分に通用する」(山岸部長)と5年後の2002年に上海代表所を開設。2004年には中国で販売する製品を生産する現地法人・上海ハウス食品有限公司を設立し、翌年2005年から日本人にはなじみの深いルウカレーのブランドであるバーモントカレー(百夢多カレー)を発売した。その読みは見事に的中し、「2012年には黒字化を達成し、百夢多の発売から10年間で売上規模は30倍にまで拡大しました。おかげさまで売上は右肩上がりで成長しています」と山岸部長は順調な事業展開を説明する。
2013年には持ち株会社となる現在の好侍食品(中国)投資有限公司(ハウス食品中国)を設立し、その傘下には生産を担う3社の法人と北京の分公司、そして全国12都市に営業拠点を構えている。事業の柱は大きく3つ。一つ目が家庭用のカレーと洋食製品、二つ目が外食チェーンやコンビニエンスストア向けに販売する業務用カレー、そして三つ目が2015年に販売を始めた機能性製品(ウコンの力)だ。こうして見ると、非の打ちどころがない中国ビジネスのお手本のように映るが、「決してそうではない」と山岸部長は言う。「中国には香辛料から作るカレーはメニューとしてはありました。だた、ルウから作る日本式のカレーはもともと中国になかったため、家庭用の百夢多を発売当時はスーパーの店頭でチョコレートと間違われることもありました」(山岸部長)と当時の苦労を今でこそ笑い話に変える。
好侍食品(中国)投資有限公司・販売本部販売企画部部長の山岸大地氏
家庭用のルウカレーは2005年から中国で販売を開始。中国人が好む味に改良を重ねてます
そうした中で、日本式のカレーを軸に新しい食文化を中国で広めるため、ハウス食品中国が注力しているのが試食をはじめとする店頭でのマーケティング活動だ。中でもユニークな取り組みの一つに、大型のショッピングセンターを舞台に実施した「カレー王国」がある。日本式のカレーのメインターゲットに小さな子供を持つ20代から30代の女性がいるが、その親子が一緒に参加してカレーライス作りや試食が体験でき、一方で子供たちを引き寄せるようにゲームや様々な遊具を併設した催しだ。若い女性たちによるSNSでの拡散効果も手伝って、この消費者交流キャンペーンは商品やカレーライスそのものの認知度を向上する上で大成功を収めたという。
2014年2015年と開催した消費者交流キャンペーン「カレー王国」には多くの親子が揃って参加した
ハウス食品中国の売上は2015年まで毎年前年120%以上のペースで伸長し、それに伴って営業所や従業員数も増加してきた。しかし、その急激な組織拡大と人員増加の裏で悲鳴を上げていたのが業務管理の体制だ。2011年、北京に赴任した山岸部長の管理範囲は周辺都市を含めて4都市、スタッフは8名だった。それが、「2015年に北京から上海に異動になる直前では、総勢50名強で11都市を管理しなければならないほど急拡大した」(山岸部長)という。特に内陸部の2級3級都市では営業所を設けず、在宅勤務のスタッフも多く、「正直、各営業が何をやっているのか、どのエリアにどれだけのお客様がいるのか、が十分に把握できない業務管理の課題に全社的に直面していた」と山岸部長はkintone導入前の状況を説明する。
当時、営業日報や顧客情報の管理はエクセルを用いて行ってはいたが、それらを社内サーバーの共有フォルダで管理するには膨大かつ煩雑過ぎたという。さらに言えば、「属人的な管理体制から脱却して、事業の成長を次のステップに進めるためには、その数値から戦略が立てられる整理されたデータとして蓄積する必要があった」(山岸部長)のだ。
そしてもう一つ、店頭の売場で試食や実演販売などの販売促進にあたる販売員、いわゆるマネキンの社内手続きや業者への手配、さらに実際に手配されたマネキンの品質管理にも頭を悩ませていた。以前は、どの店にいつマネキンが必要なのかといった情報を各営業担当がエクセルに記入してメールで上司に申請。メールや紙による社内の決裁フローを経て、マネキンを手配する外部の販売促進会社に発注していた。消費者との接点である店頭の売場での試食や実演販売はハウス食品中国にとって、「カレーを人民食に」するための重要な施策の一つ。毎日、必ず複数の店頭にマネキンを手配するほどその数は多く、次第に管理が追い付かなくなっていったという。「エクセルとメールを用いた申請フローを簡略化して、全体の業務を効率化することが急務だった」と山岸部長は当時を振り返る。
ハウス食品中国がkintoneを導入したのは2015年後半。折しも、同社が売上規模を追求する従来の戦略から、規模と利益のバランスを図る戦略に舵を切った2016年の前年だ。社内に散在するつぎはぎ状態の顧客情報を集約して、まさに規模と利益のバランスを追求する戦略実現に向けたデータのプラットフォームの一翼を担うことになったといえる。現在、主に利用するのが、従前に課題として抱えていた営業活動や顧客情報を管理する営業日報や商談報告、顧客マスタのアプリケーションだ。
ハウス食品中国が使用するkintoneのポータル画面
家庭用のルウカレーを担当する営業であれば、営業日報には訪問した店舗の状況を記録する訪店記録もkintone上で記入しなければならない。どの店舗でどの商品がいくらで販売されていたか、競合他社の製品はどれぐらい取り扱われていたか、どのように陳列されていたか、など各店舗における売場の日々のタイムリーな情報は商品の販売数値に大きく影響し、なおかつ次なる戦略の打ち手を決める客観的な判断材料になっている。
営業が担当するスーパーへの訪問した内容を記録する「超市訪問記録」
もちろん、それぞれの担当営業の行動管理にも一役買っている。中国全土に12か所の営業所を構え、さらに在宅勤務によるスタッフも活用するハウス食品中国にとって、各営業が決められた店舗にしっかりと訪問しているかどうかを把握することは難しい。そこで、毎日異なるパスワードを全営業に微信で配信し、そのパスワードと日付を書いたメモを撮影した写真をkintone上の営業日報の中でアップさせることで、店舗への訪問をさぼることができないように抑制している。
店舗への訪問報告として毎日配信するパスワードを現場で撮影してkintoneにアップする
kintone採用から1年強を経て、「やらされている感じから、逆にアプリケーションの要望が出てくるなど、徐々にメリットを感じて積極的に使ってもらえるようになった」と活用状況を評価する山岸部長だが、導入当初は「慣れない入力作業や情報共有に対して中国人スタッフの反発は想像以上だった」(山岸部長)という。では、どのように定着を図ったのか。山岸部長はポイントを2つ挙げる。「まずは会社の意思としてkintoneを活用するメリットを徹底して伝える。監視のためではないことをとにかく説明しました。ただ、それだけではやはり難しいので、導入後しばらくはkintoneの使用状況を数値化して定例の部門会議で公開し、マネージャーの意識を競わせて利用率を高めていきました」。
マネキンを手配する業務効率もかなり向上した。社内だけではなく、マネキンを手配する外部の販売促進会社にもkintoneのIDを提供し、営業部門の申請から外部業者によるマネキンの手配までのワークフローが全てkintoneで一本化して行えるようになったのだ。また、それだけではない。売場に立つマネキンの服装や実際の試食や実演販売の状況のチェックすることを販売促進会社に課し、その報告をkintoneで一元管理。適切なスキルを持つマネキンを店頭に派遣するなど販売促進の品質を担保できる仕組みを築いている。
kintone上で売場で実施する試食などの販売促進活動の評価を報告する
売場での自社商品の陳列状況から試食のマネキンや提供するカレーの写真をkintoneで共有する
データとして活用できるある一定の量の情報がすでにkintoneに蓄積されたと山岸部長は話す。次は、「その情報を現場の営業が欲しい形にしてフォードバックし、情報活用の好循環を作りだすこと」だと意気込む。例えば、エリア毎の商品構成比や業務用のチャネル毎の導入率など、そのイメージはすでにある。「時系列で情報が分析できるのはkintoneで収集しているから。エクセルではこうはいかなかった」(山岸部長)。
2018年に浙江省・平湖国家級経済技術開発区で稼働予定の第三工場は世界最大のカレー生産工場となる
会社としても、さらなる成長に向けてアクセルを強く踏む。2018年には中国で第三工場となる生産拠点が浙江省の平湖市で稼働する。カレーの生産工場としては世界最大規模で、上海市を中心とする高い市場性がある華東エリアへの供給体制を一段と拡充する。「カレーを人民食に」。その高く掲げたスローガンが現実になる日もそう遠くないかもしれない。